糖尿病は全身の血管の機能が低下する病気ですので、眼球内血管も例外ではありません。網膜の血管の機能が低下すると、その血管から栄養を得ている網膜の部分が栄養不足となります。人間の身体は栄養不足になれば、それを補おうとする反応が起こります。この場合は新しく血管を作ることでダメージを受けている網膜の部分の栄養を得ようとします。その血管を新しく生まれた血管ということで新生血管と言います。この新生血管は、一見いいように見えますが、網膜は、新たな血管が侵入するスペースがない程に細胞が密なため、新生血管は硝子体へと伸びていくのです。そして硝子体剥離が起こった際、新生血管が引っ張られ破れる為に出血が起こります。怪我するとかさぶたができるように新生血管の周囲にもかさぶたができます。そのかさぶたは皮膚を引っ張るように、網膜を引っ張り、網膜剥離を起こします(図4)
眼内では、そのかさぶたのことを増殖していく組織ということで増殖組織と言います。新生血管が眼内全体に起こると、いずれ隅角(「目の解剖について」を参照)にも出現します。そして隅角でも同様に増殖組織ができ隅角を閉鎖します。そうなると水が出られず眼圧が上昇し緑内障になります。これを新生血管によるものなので血管新生緑内障と言います。ここに至ると失明に近づいてきます。従って、新生血管が隅角に出現するのを防ぐために、まず光凝固を施行します。網膜光凝固とは、栄養不足状態の網膜を焼くことで新生血管の発育を抑え退縮させるものです(栄養不足網膜から栄養供給の指令の因子が出て新生血管が出現するため、栄養不足の網膜を光凝固で焼くと、その因子が出ないようになります)。光凝固後は網膜細胞を焼いたため、視野が狭くなったり、夜見にくくなったりします。神経の出入り口(視神経乳頭)や物を見つめる場所(黄斑部)には光凝固をすると視力がなくなるためできません(図5)。光凝固で焼くと熱炎症で水が発生し、凝固できない黄斑部に水が貯まる場合があります。そうなると視力は低下します。糖尿病網膜症が進行し、網膜が腫れていればいるほど水が多く発生し、貯まり易くなります。しかし、光凝固効果によって血管からの血液成分の漏出がとまれば、水が吸収され視力の回復の可能性もあります。光凝固は瞳孔を通して施行するため白内障や濁りがあれば施行できず、網膜の最周辺部も茶目(虹彩)があるため施行できません。普通は、瞳孔を通して施行できる範囲の光凝固で新生血管は消退していきますが、これでも消退しない場合があります。消退しないということは、かなり光凝固を施行しているにもかかわらず、どこかに栄養不足の網膜が存在することになります。つまり、それは最周辺部の網膜の栄養不足を意味します。この場合には最周辺部に光凝固が必要になります。最周辺部網膜に光凝固可能な所に施行するためには眼内からのアプローチで光凝固するしかなく、硝子体手術となります。また、光凝固を施行しても出血や網膜剥離が起こる場合があります。その時も硝子体手術が必要となります。しかし、網膜剥離や出血が起こっていても眼内の病変の活動性が高い場合は、光凝固を施行して活動性を低下させた後に硝子体手術を施行した方が、術後よい経過をたどるので、可能であれば手術前に光凝固を施行します。出血の吸収が不良な場合は出血を取り除く為に、増殖組織が網膜剥離を起こしている場合には網膜剥離を治すために牽引の原因である増殖組織の切除の為に硝子体手術が必要になります(「硝子体手術について」を参照)。
年齢が若く糖尿病の内科的治療や眼科的治療をされてない場合が、最も術後の再増殖が起こり易い。なぜなら、若年者ほど傷の治りが早いのと同様に眼内も増殖性変化が強く、さらに治療がされていなければ眼内病変の活動性が高いからです。硝子体切除後に増殖性変化による網膜剥離が起きた場合は、硝子体切除前に比べかなり病状の進 行が早くなります。というのは、新生血管は組織の中しか進展しないので、硝子体切除後は最周辺の残った硝子体に集中し、さらに水の出口の隅角にも急激に進展、血管新生緑内障に至るためです。このような場合には、1回目の手術で水晶体を残していても、術後に周辺部処理が必要となれば水晶体を切除します。数回手術しても光を失う場合もあります。術後数週間から1年までは再増殖の可能性があります。視力は網膜の障害が強い場合には回復しませんが、網膜復位後に血流改善があるため術後1年ぐらいで視力上昇する場合もあります。
中川眼科医院 一般眼科・網膜硝子体専門(糖尿病網膜症など)
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