網膜に何かの理由で穴が形成されると網膜剥離が起こります。
しかし若年者で硝子体がしっかりしている場合は網膜をしっかり押さえているため裂孔が形成されても網膜剥離は起こりません。しかし硝子体が収縮を起こしたり水っぽくなっていくと網膜の移動が可能になり網膜剥離が起こります。網膜剥離が起こっても黄斑部の網膜が剥離しない限り視力低下はありません。また周辺部の網膜剥離は視野障害を来しますが、最周辺部の網膜剥離のみでは気付かれないことも多くあります。網膜剥離の原因は、大きく分けて以下の2つです。
1:硝子体剥離が起こる時に網膜が強く引っ張られ裂孔が生じる。
(「目の解剖について」を参照)
2:網膜が自然に薄くなり萎縮することで穴が生じる。
網膜剥離が起こると身体はそれを治そうとする働きをします。
怪我すると、かさぶたができるように眼内にもかさぶた(治そうとする因子(増殖性因子)がでるためです)ができます。
そのかさぶたは皮膚を引っ張るように網膜を引っ張り、網膜剥離を起こします眼内では増殖していく組織ということで増殖組織と言います。この増殖組織は、網膜剥離の時間が長ければ長いほど多くなります。なぜなら網膜剥離が起こると、網膜の下に水が入りスペースができるため、長期の網膜剥離になると網膜の表面だけでなく網膜の下にまで増殖組織が出現するからです。
また年齢が若いほど増殖組織が多く出現します。なぜなら、若年者ほど傷の治りが早いのと同様に眼内も増殖性変化が強く、さらに硝子体がしっかりしているため網膜剥離が広がりにくく視野障害や視力低下という自覚症状が現れにくいため、網膜剥離の期間が長くなるのです。
その増殖組織が多くなった事を増殖性硝子体網膜症と言います。(「増殖性硝子体網膜症について」を参照)
≪手術≫
網膜剥離に至らず裂孔のみであれば光凝固で網膜をのり付けができます。この方法により殆どの網膜剥離は予防できますが、硝子体牽引がのり付けより強くなると網膜剥離が起こります。網膜剥離に至ると網膜復位術を行います。これは網膜裂孔をふさぐ手術で、裂孔をふさげば網膜剥離は自然に消失していきます(増殖組織が網膜を引っ張っている場合は例外です)。手術は、眼球外からシリコンスポンジ(素材はいくつかあります)のあてもの(バックル)をあてて眼球外壁(強膜)を眼球内へ押し、眼球内の硝子体と裂孔をサンドイッチにして裂孔を押さえます(図3)。
そして、術後に網膜裂孔の周囲に光凝固を施行して癒着させ、裂孔を閉鎖します。網膜剥離が起こっている状態でバックルをあてますので、網膜剥離が減少した時に裂孔がバックルから少しずれることがあります。その場合は、後日少しバックルをずらします。増殖組織が存在する場合、牽引がかかっている部分もバックルをあてて牽引を緩和させます。手術中には、冷凍凝固(強膜の外から網膜を氷らせて裂孔の周囲を癒着させて閉鎖するもの)を施行することがあります。丈の高い網膜剥離(網膜の下に多くの水が入っている場合)や網膜剥離期間が長い場合には、網膜の下の水(網膜下液)を手術中に抜去(排液)するかもしれません。なぜなら丈の高い網膜剥離はバックルをあてても眼球外壁が網膜付近まで到達せずサンドイッチ効果がないためです。そして、長期の網膜剥離の場合は網膜の下の水の粘稠度が高く、術後なかなか吸収してくれないからです。網膜下液の排液は、外壁の強膜を切開し、網膜を栄養している血管豊富な脈絡膜を穿刺するため出血が起こる場合があります。出血は程度によって自然吸収しますが、多ければそれに対して手術が必要なこともあります。
≪手術術式選択≫
バックルのあて方には、大きく分けて局所にあてる場合(図3)と全周にあてる場合(図4)があり、バックルのあてる量(範囲)によって硝子体の濃縮度が決まります。
硝子体が水っぽいと局所のバックルのみでは硝子体が濃縮せずサンドイッチ効果がないため(図5)、全周にバックルをあて濃縮度を高めます。(図4)
白内障手術施行されている場合は、除去された水晶体より眼内レンズの容積の方が小さいので眼内のフリースペースが増えます。同量の硝子体量でフリースペースが増えるということは、硝子体の濃縮度が悪くなるためさらに濃縮させる必要があります(図6)。
硝子体がバックルのみで濃縮されなかった場合、術中あるいは術後に気体を眼内に注入することがあります。これは、その気体を硝子体の代わりにバックルとサンドイッチさせるためです(図7)。気体は軽いため上に上がるので、網膜裂孔を押さえるためには裂孔を上にする体位が不可欠となり、気体が自然吸収されるまでの約1週間は体位制限を必要とします。気体は網膜裂孔を押さえるのに有効ですが、硝子体自体も上へ牽引されるため、下方の網膜も上へと引っ張られてしまいます。それにより新たな網膜裂孔を作る場合があります。この場合は、眼内からのアプローチ(硝子体手術)が必要になることもあります。(「硝子体手術について」を参照)
≪体位制限≫
術前体位:
硝子体は重力で下へ下がります。網膜裂孔を下にした体位では硝子体は裂孔の上に乗り、裂孔を圧迫します(図8)。つまり硝子体のみ(バックルなし)であっても網膜裂孔を押さえ圧迫できるので、網膜剥離の減少が期待できます。また稀に体位だけで網膜剥離が消失し手術せず光凝固のみで治る場合もあります。網膜下液が減少するだけでも手術がし易くなり術後の裂孔のずれも減ります。このために術前の体位が重要となります。
術後体位:
バックルと硝子体とのサンドイッチ効果を増すために術前同様に裂孔を下にします(図9)。しかし、裂孔周囲に網膜下液が多少残っている場合には光凝固ができないので、一時的に水をその場所から移動させるために逆の体位をとることがあります。水は重力の方向に移動するため、裂孔を上にした体位をとれば一時的に水は移動するので、その時に光凝固を施行します(図10)。その後の体位については、網膜下液の水の量によって決まります。
気体注入の場合:
気体が裂孔を圧迫するように裂孔を上にした体位となります(図7)。
視力は網膜復位後に血流改善があるため術後1年ぐらいで視力上昇する場合もあります。黄斑部網膜の網膜剥離期間が長ければ長いほど視力回復は不良となります。
術後、硝子体剥離が進行するとバックルで押さえていた網膜に、さらに牽引がかかり再剥離の可能性があります。
術後、サンドイッチ効果がみられない場合や、増殖組織の牽引が強い場合には、網膜剥離が治らないことがあります。この場合は、硝子体手術(眼内からのアプローチ)を施行することもあります。
しかし、数回手術施行しても再増殖が続き光を失うことや、バックルという異物を体内に入れるため、異物反応の強い方は、眼球運動障害が起こる場合もあります。また、あてものをあてるため、乱視がでることもあります。あまり乱視が強い場合は網膜剥離が落ち着いていればバックル抜去することがあります。その場合は落ち着いていても網膜剥離再発の可能性は低いですがあります。
中川眼科医院 一般眼科・網膜硝子体専門(糖尿病網膜症など)
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